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三和銀行オンライン詐欺事件

大阪の社会部に配属されてすぐに三菱銀行北畠支店の事件があったが、
それ以降は大事件がなく、所轄の南署を中心に大阪市内の警察署回りを続けていた。

三菱銀行事件では、現場の警察官たちの凄まじい動きや緊張感を目の当たりにしたが、
私は遠巻きに眺める大勢の記者連中の中の一人にすぎなかった。
しかもこれほどの事件現場を体験したこともなく、何をどうすればいいのかも分からないまま、
長い時間を過ごしたに過ぎない。

この事件の捜査本部が設置された住吉署や阿倍野署の担当ではなかったので、ようやく親しくなった南署
や港署の刑事たちから大事件のさいの府警本部捜査一課、機動隊、特殊部隊、鑑識課などの職務内容を
学んだ。ただ、浅はかにも、自分の担当する警察署の管内で大事件が発生しないことを願ったことを憶え
ている。要するに、低レベルのサラリーマンのように激務から腰を引いていたわけで、今でも恥ずかしい思
いがする。

そして所轄警察署が西成署を中心とした各署に担当が変わり、多くの事件取材を担当した。
(この間の事件については改めて述べることにしたい)

昭和56年(1981年)早春、私は司法担当、つまり裁判所と検察庁の担当となり、主に検察庁を取材する
ことになった。その年の9月、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)茨木支店の女子行員が、支店のオンライン
システムを悪用し1億3千万円を詐取し、海外へ逃亡したという事件がマスコミ各社によって報道された。
当時、私は茨木市内に住んでいたので(後で知ったのだが私の妻が同支店に口座を開設していたことも
あり)、興味をそそられた。

一般に、検察庁は警察が検挙した事件を吟味し、起訴の是非を判断する。(刑事部)
起訴後の事件については裁判所で有罪を立証するのが役目(公判部)で、テレビなどでもおなじみの検事
の姿だ。これとは別に検察庁が独自で入手した情報をもとに捜査、立件する特捜部がある。

検察庁担当が未経験だった私は、刑事部の検事に取材を試みたが「まだ何も警察から説明も証拠も
届いていない」などとけんもほろろの態度だった。実際、そのころは検察庁にコンピューターシステムの
操作など詐取の方法の具体的な捜査情報はなかっただろう。

私は、社内の同僚記者や親しくなっていた警察の刑事から茨木署の情報を教えてもらった。
専門の捜査員の話では単純な事件で、女子行員が惚れた男に騙されたというもので、共犯の男や関係者
もすべて判明しているという。
ただ、社会的によく知られていないオンラインシステムを悪用した点が目新しかったらしい。

9月になってフィリピンのマニラに逃亡していた女子行員が発見され、飛行機で連行されて逮捕された後、
茨木署で犯行を自供し、容疑事実をすべて認めた。

私は大津支局時代、滋賀銀行9億円詐欺事件の裁判を担当したことがあり、
その犯人の女子行員も「愛したと信じていた男」に騙されたという結末だった。

翌年の昭和57年7月、三和銀行事件の判決があり、女子行員に懲役2年6月、だまし取った大金を使い果た
した男に懲役5年の実刑が言い渡された。公判での女子行員はほとんど反論することも無く、黙って判決を
聞いて裁判長に頭を下げた。この女子行員は、メディアでも週刊誌でも「美人」と話題になり注目された。
私も「美人」という表現には全く同感、それに比べて愛人とされた男が、女子行員に罪をなすりつけようとす
る態度は滋賀銀行事件と同じだった。

後味の悪い事件だったが、いろいろな情報を教えてくれた刑事と南署の近くのスナックで飲んだとき、
話を聞いていたスナックのママさんが「女の人は可哀そうやし、気持ちもよう分かる」としみじみと口を
出したあと「うちの店の名前もオンラインにしようかしら」と真面目な顔で私たちを見た。
「スナック・オンラインか。ええやないの」と横に座っていた刑事が笑い声をあげた。

そのスナックの名前が変わったかどうかは知らないが、
この事件がその後の銀行業界にコンピューター犯罪防止に警鐘を鳴らしたことは間違いかったようだ。

作家 津島稜